東日本大震災の川柳

 

 

 

 


  東日本大震災                尾藤 三柳
霊長の尊厳奪い去るマグマ      
 (地震)
祈るしか術なし眼前が裂ける
脱力の五体に限りなく余震
ずたずたのレールを舐めていくレンズ
飼い犬も余震に覚めぬほどに馴れ
水の壁人間はかく無力なり       
(津波)
日本語をTUNAMIと書けば恐ろしき
町一つ泡より軽く浮き沈み
屋根が車がミキサーを見るごとし
廃船の舳先が屋根に乗り上げる
音のない水が剥がしていく廃墟
水の歯が北の道路を噛み千切る
水溜まり家族の顔は映らない
原発にかもとだろうが多すぎる    
(原発)
ドレミファのように建屋を漏れる煙
原発の野性を目覚めさせた揺れ
爪痕をゆっくりと這う放射能
真っ先にほうれんそうが牙を剥く  

M9に寒い政治の及び腰        (政治)
丸暗記みたい総理のメッセージ
放射能政府の口が重くなる
国難はともあれ四月には選挙
死に体に手を貸す大同はゴメン
海のつめ低体温を置き去りに    
(避難所)
避難所の無邪気を抱きしめる余震 
生き残り証書いただく窓の雪 
確認という手続きが要る生死
絶望に臥して覚めれば何も無し   
(その他)
壊滅の町をまんべんなく白魔
奇跡的生還を聞く痺れた耳
被災報告三日目からは節がつき
埒もなく答える学者専門家
海底の悪魔は三度名を換える
東京は棚のダルマが転げ落ち   
(東京では)
東北の揺れで渋谷に夜の群れ
避けられぬ義理運休を乗り継いで
センバツの画面が続いてる虚ろ
生き過ぎて終の廃墟と二度出遭う


 東日本大震災                尾藤 一泉
天地震盪 初代が転げ五世が落ち
肝を裂き地を割き地震人をさ別き
来し方も明日も浮かぶ長い揺れ
大地など借り物というM9
見開いたまんまダルマの床に落ち
落ちゆくものの諸手無力に摑むくう空
散らかった史料に古き地震の句
映像に津波の古句のリフレーン
津波去る日本の下着まで濡らし
レスキューの橙色が胃に刺さる
川柳が届かぬ遠い遠い瓦礫
国境のない手ずぶ濡れの国へ
首相から寒さが漏れるぶら下がり
避難所に国旗ばかりの国の術
塞がらぬ胃袋へまた来る余震
原発のふるい神話が融けてくる
放射能 余震に慣れた足を取り
檻を出た野獣が放つシーベルト
規制値の無意味「神話」をまだ生かす
首筋にたびたび来てるシーベルト
復興へ大地の眩暈 わが目眩
泥つきの証書明日へ託される
再生へ何もなかったような海

 大震災吟 
災害に学童疎開よぎる今日    内田 博柳
激震に耐えた柳祖の墓所      内田 博柳
激震にデンと六三四の土性骨   内田 博柳

避難所を想い静かに米を研ぐ   高齋ゆみこ
花粉払うように 被爆にも対処  高齋ゆみこ

避難所のにぎり涙をかけて食う  北埜郷柳
三陸の景色も夢も海が嘗め     北埜郷柳

まだ春の遠い地が割け海が裂け  ヴォイス
震災に喪中きめこむコマーシャル  ヴォイス
空っぽの棚に煽られ無駄に買い   ヴォイス

東電に遣り繰り術を教えられ     野村碧海
義捐金送る幸せ噛み締めて      野村碧海
もう既に被爆受けてる花粉症    野村碧海

大地震津波が通る弥生寒       後藤けんじ
時差停電 戦後の頃を思い出す 後藤けんじ
長生きで逢う千年に一度の禍   後藤けんじ

天災と濁す甘さの科学の目        森下みえ
津浪去り異国の情に目を開く      森下みえ

避難所に避難を迫る放射能       永井天晴
M9ニッポンが試される             永井天晴
原子力博士になってしまいそう    永井天晴
ただ見てる術しか知らぬランク7  永井天晴

四面楚歌暗きうねりの大地揺れ   荒瀬ま喜

原発の今日も絆で生かされる     中村よし胡
大震災賞味期限が忘れられ       中村よし胡
大震災忘れた物が顔を出す       中村よし胡

'平成'の願い空しく大津波                 小沼一拝
立ちくらみ   いえ余震デスご老体        小沼一拝
お笑いも一息ついたチャリティーショー  小沼一拝

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